女神からの招待(神田・猛明)「ねえ、知ってる?3年の先輩が行方不明なんだって」 由比遥華は学校の昼休みに昼食を食べながらクラスメイトからそんな話を聞いた。 ここ数日で十数人の人間が行方不明になっている。 どの人間にも共通するのは「白銀の姫」というゲームのHPを見たという事。 幻のゲーム、呪われたゲームとも呼ばれる「白銀の姫」は今や神聖都学園の生徒の中でも噂が絶えない。 しかも開発者が神聖都学園の生徒だと言う噂も聞いた事がある。 「でね、「白銀の姫」のHPはURLアドレスを入れても普通は表示されない見たい。」 クラスメートのその発言に由比遥華は 「じゃあ、選ばれた人間しか行けないっていうこと?」 と聞き返した。クラスメイトは少し困ったような顔になったが 「まあ、そうとも言えるかもしれないわね。でも選ばれた人間って言う言い方は何か変だと思わない?」 そう由比遥華に言うとクラスメイトはお弁当箱を片付け立ち上がった。 「私、飲み物買いに行ってくるね。」 由比遥華はそのクラスメイトを見送ると、さっきの言葉を思い出した。 「選ばれた人間か・・・。」 (「白銀の姫」のURLなら知っている。あとは・・・) 食べかけの弁当を片付けると由比遥華はある人物の元へと走りはじめた。 ー 由比遥華 ー 「あー良い買い物した」 響・梨花は伸びをすると荷物を持っている恋人の神田・猛明を見つめた。 モデルの響・梨花はいつどこにいても周りの目を引く。 抜群のスタイルに加え銀色の流れるような長い髪の毛、そして吸い込まれるような青い瞳。これで人が振り向かないはずもない。 加えて恋人の神田・猛明はプロの格闘家で世間に顔をも知られているのであらゆる意味で二人は人々から見られるカップルだ。 「だいたい買い過ぎなんだよ」 神田・猛明はぽつりとこぼした。 「んー?何か言った」 その言葉に神田・猛明は首を横に振り 「いや、何も」 と答えた。そんなやり取りを二人がしている時、響・梨花が突然立ち止まった。 「……遥華ちゃん?」 響・梨花はそう呟くと一人の少女を見つめた。どうやら響・梨花の知り合いの少女のようだ。 「遥華ちゃん!」 響・梨花は大きな声をあげると少女に向かい手を振った。 するとその声に気づいた少女は立ち止まり響・梨花と神田・猛明の傍へと駆け寄ってきた。 「こんにちは梨花さん」 少女は息を整えながら響・梨花にそう挨拶した。そして神田・猛明を見つめると 「はじめまして、由比遥華です。もしかして神田・猛明さんですか?」 と嬉しそうに神田・猛明に声をかけた。響・梨花は不思議そうな顔で 「あれ?確か紹介してなかったよね?」 そう尋ねると由比遥華は目を輝かせ 「私格闘技大好きなんです。だから神田さんの試合も拝見してます。こんな所でお会いできるなんて嬉しいです」 由比遥華の言葉に神田・猛明は少し照れくさそうに 「はじめまして、神田・猛明です」 と挨拶した。その様子に響・梨花は少し微笑むと 「紹介する手間省けてよかったかも。遥華ちゃんも嬉しそうだしね。」 そう言うと遥華に向き直り 「何であんなに急いでいたの?何かあったの?」 心配そうに由比遥華に聞いた。すると由比遥華は少し考えると 「実は……」 そう言うと「白銀の姫」に関する噂を話しはじめた。 行方不明の生徒。開発者の噂そして 「私、「白銀の姫」の中に入ってみようと思うんです」 二人にそう話した。その話を聞くと二人は顔を見合わせるとお互い頷き 「私たちも一緒にいくわ「白銀の姫」の事は気になっていたし、謎が解決できるかどうか分からないけど、誰かの手助けはできるでしょう」 響・梨花はそう言うと由比遥華を優しく見つめた。そして神田・猛明も 「梨花だけ行かせるワケにはいきませんからね」 そういうと響・梨花と由比遥華に向かって笑いかけた。 神田・猛明の言葉を聞くと響・梨花は立ち上がり 「じゃあ決まり。遥華ちゃんはどこに行こうとしていたの?」 そう言うと由比遥華を見つめた。響・梨花のその問いに由比遥華は 「自宅に帰ろうと思っていたんです。「白銀の姫」のアドレスは知っているから自宅のパソコンからダイブできないかと思って」 神田・猛明はその言葉を聞くと 「では、遥華さんの家に向かいましょう」 そうして3人は由比遥華の家である「鏡の館」へ向かった。 ー 白銀の姫へ ー 「あら、お帰り。早かったのね」 由比遥華が「鏡の館」の呼び鈴を鳴らすと由比遥華の母親、由比真沙姫が出てきた。 響・梨花と神田・猛明は挨拶をすると由比遥華の由比真沙姫はにこやかに挨拶を返した。 そして自分の部屋へ向かおうとする娘に 「「白銀の姫」に行くのね」 一言いった。由比遥華は母親に向かい頷くと 「ママが教えてくれたアドレス、試してみる。だから部屋に入らないでね。ダメだったら居間に行くから」 娘のその答えに由比真沙姫は頷き、 「知っている情報は自ら「白銀の姫」に入った人間は自らの意思で帰って来れる。これくらいかしらね。まあ、向こうでは色々あると思うけど死ぬ前に帰ってきなさい。いいわね」 由比遥華は母親に向かい微笑むと 「わかってる。じゃあ行ってきます。」 そういうと由比遥華は響・梨花と神田・猛明に自分の部屋へ来るよう促した。 二人は由比真沙姫に一礼すると由比遥華を追いかけた。 3人は由比遥華の自室に入ると机の上に置いてあるノートパソコンを見つめた。 「運がよければ3人とも行けるはずです。もし誰かが行けなかった場合はこの部屋で待っていて下さい」 由比遥華はパソコンを立ち上げるとネットに接続した。そして開いたウィンドウのURLの部分を消し新たに「白銀の姫」のアドレスを入力した。 「いきます」 由比遥華は響・梨花と神田・猛明を見つめ二人が頷くのを確認すると「Enter」をタッチした。 その瞬間 3人は光に包まれその部屋からいなくなった。 「白銀の姫」へのダイブは成功した。 ー アリアンロッドとの出会い ー 「はじめまして、勇者様」 3人が「白銀の姫」で初めて見たのは白い女神だった。 白い髪の毛に白い肌そして緑に輝く瞳。その瞳は3人に強い意思を感じさせた。 3人は現実世界と変わらぬ服装で白い女神の立つ大理石の神殿に立っていた。 「え、えっと。勇者ですか?」 響・梨花はそう白い女神に問いかけた。その問いに女神は静かに頷くと 「はい。私はアリアンロッドと申します。あなた方のお名前は?」 その問いに響・梨花から自己紹介を始めた。 3人の自己紹介を聞くとアリアンロッドは少し微笑み 「響・梨花様、神田・猛明様、由比遥華様ですのね。私の招待に応じて下さって感謝しています」 すると神田・猛明はその言葉に疑問を感じて 「招待に応じた?」 とアリアンロッドに聞き返した。その問いにアリアンロッドは頷き 「はい。私の招待に応じた方はここにいらっしゃる事になっています。それはその方が好んでいらしたという訳ではありませんので、私の願いを断る事も可能です」 そう説明するとアリアンロッドは3人を見つめた。 「この世界は私も含めた4人の女神が存在しています。他の女神はこの世界を作り替えようとしています。それが破滅につながるかもしれないのに。私はそれを防ぎたいのです」 3人は黙ってアリアンロッドの話を聞いた。続けてアリアンロッドは 「どうかお願いです。私に協力してこの世界を破滅から救って下さい」 響・梨花はその話を聞くと一つの疑問をぶつけた 「私たちが勇者になれば、私たちの世界から無理矢理この世界に連れてこられた人たちを救う事が出来る?」 その問いにアリアンロッドは少し戸惑いながらも 「わかりません。ただお帰りになる方法は見つかる可能性はあります。私は存じませんが」 由比遥華はアリアンロッドの答えを聞くと頷き 「私、勇者になります。梨花さんと神田さんはどうしますか?」 と二人に聞いた。響・梨花は由比遥華のあたまを撫でると 「もちろん私たちもなるに決まってるでしょ。その為に来たんだから。ね」 そう言うと神田・猛明を見つめた。響・梨花の問いに神田・猛明は黙って頷いた。 こうして3人はアリアンロッドの勇者となった。 ー 消えた人々 ー 「モデル時代を思い出しますね……」 響・梨花はアリアンロッドに与えられた装備を見て苦笑した。 どうやら響・梨花のクラスは「巫女」。その手には野球ボール大の宝珠。衣装は「何故か」露出度の高い巫女服になってしまい、響・梨花は苦笑したのだった。 その響・梨花の服装を見て神田・猛明も 「………ゲーム製作者の趣味なんでしょうか?」 とポツリ。そんな神田・猛明の服装は濃紺の僧衣。所持アイテムは独鈷杵。クラスは「退魔師」のようだ。 「すごい服装ですね」 由比遥華も苦笑いをしながら響・梨花を見つめた。由比遥華のクラスは「剣士」。手には細身の剣を持ち、衣装は女性用の軽装の鎧。鎧の下には膝上の赤いミニスカートと膝より少し上のブーツ。 3人とも現実世界とは違いいかにもファンタジーという服装だ。 「皆様、装備が整ったようですね。それではよろしくお願いします」 アリアンロッドは3人に言葉を贈ると、3人は頷きアリアンロッドのいる場所を後にした。 兵装都市ジャンゴ。 4人の女神が住むこの町は活気にあふれていた 「じゃあ、とりあえず情報収集からですね」 由比遥華は響・梨花と神田・猛明に言った。二人も頷き消えた人々の情報を集める事となった。 「とりあえず神聖都学園の生徒で消えた人間を捜しましょう。3年の先輩で「加藤 早紀」って言う先輩です。顔は知っているのでその人を見つけてこの世界の情報を仕入れましょう」 その言葉に響・梨花と神田・猛明は頷いた。そして神田・猛明が 「その子の特徴を教えてくれると嬉しいんだけどね」 と由比遥華に言った。するとしばらく考えるとポケットの中を探り1枚の写真を出した。 「クラブが一緒なんですよ。この写真の中央にいる三つ編みの人が加藤先輩です」 由比遥華は二人に写真を見せると中央の少女を指差した。二人は顔を確認すると頷いた。 「とりあえずこの写真を見せて探したほうがよさそうね」 響・梨花は二人に提案した。二人もそれに同意し、3人は町の人々に聞き込みを始めた。 聞き込みを初めて数分。 「ああ、このお嬢ちゃんならさっき見かけたよ」 酒場の店主がそう話した。三人は顔を見合わせ酒場の店主に一斉に 「どこに行きましたか!!」 と詰め寄った。酒場の店主はそれに圧倒されながら 「えっと、パンを買いにいくとか言ってたな。この店を出て右に出た所だ」 そう答えた。その答えを聞くと3人は礼もそこそこに酒場を後にした。 酒場を出て右に出てすぐの所に「パンの店」という看板がかかげられた店があった。 3人が駆け寄ろうとしたときパン屋の扉が静かに開いた。 そしてそこから出てきたのは「加藤 早紀」だった ー 無くした記憶 ー 「加藤先輩」 由比遥華はそう言って加藤早紀に声をかけた。 すると加藤早紀はまるで判らないと言った顔で由比遥華を見つめ 「どなたですか?どこかでお会いしたかしら?」 と不思議そうな顔で答えた。由比遥華は驚き 「え?神聖都学園のクラブで一緒だった由比遥華です。覚えてないんですか?」 加藤早紀に詰め寄りさらに問いかけた。しかし加藤早紀はぼんやりとした顔で 「しんせいとがくえん?兵装都市ジャンゴで聞いた事無いけれど……」 その言葉に響・梨花は眉をひそめ 「記憶が無いの?あなた自分の名前はわかるの?」 加藤早紀の肩をつかむとそう問いかけた。その態度に加藤早紀は 「失礼な方ね。私の名前は加藤早紀。兵装都市ジャンゴの洋服店で針子をしている。それ以外の何者でもありません。」 それを聞いた神田・猛明は加藤早紀を見つめると 「……俺達の世界での記憶をなくしている様子ですね。つれて帰るには記憶を戻さないと行けないようだね」 その言葉に由比遥華はがくりと肩を落とした。そして加藤早紀はその様子を見ているとイライラとした口調で 「人違いじゃありませんか?私急ぐので失礼します」 そう言うと3人から逃げるように人ごみの中へと入っていった。 「そんな……」 由比遥華は加藤早紀の後ろ姿を見つめながら瞳から涙を流した。 響・梨花と神田・猛明はそっと由比遥華の肩に手を置き優しく微笑んだ。 ー もとの世界へ ー 「とりあえずここで収集できた情報をまとめましょう」 響・梨花は泣いている由比遥華の手を握り、そう言った。 「色んな人に聞いたけど、何かしら特殊な能力を持っている人間は記憶をなくさない。そして女神に招かれた人間も同じ。何かしらの理由で「白銀の姫」の中に入った普通の人間は記憶をなくす。こんなところかしら?」 神田・猛明はそれを聞き頷くと 「俺達の世界での記憶を「白銀の姫」の中でも持っている人間も特別な存在みたいだね。自由に行き来ができるようだしね。」 そう言った。響・梨花はそれを聞くと 「とりあえず今回は一度戻った方がよさそうね。記憶を取り戻す方法。それから「白銀の姫」から連れ出す方法も考えなきゃ」 響・梨花のその言葉に泣いていた由比遥華も頷き 「そうですね。一度体勢を立て直してもう一度ここにきます。今度は長時間ここにいられるように準備してこないと。色々と問題があるみたいですから」 そして3人は手を繋ぎ現実世界を思い浮かべた。 次の瞬間、3人の目の前には由比遥華の自室に現実世界の服装で立っていた。 ー 次への準備 ー 「じゃあ、またね。次に「白銀の姫」に行く時には教えてね。私も別ルートで行く事があれば情報を教えるわ」 響・梨花は由比遥華の自宅の玄関先でそんな言葉をかけた。 「はい。私もいろいろ情報を集めてみます。今日は有り難うございました」 由比遥華は響・梨花と神田・猛明に頭を下げると二人を玄関から見送った。 こうして「白銀の姫」での最初の旅は終わった。 次にあの世界へ行く時にはどうなるのか。3人はそんな事を考えながらそれぞれ次への準備をするのだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 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